坂口安吾
桜の森の満開の下
そこは桜の森のちょうどまんなかのあたりでした。四方の涯は花にかくれて奥が見えませんでした。日頃のような怖れや不安は消えていました。花の涯から吹きよせる冷めたい風もありません。ただひっそりと、そしてひそひそと、花びらが散りつづけているばかりでした。彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。いつまでもそこに坐っていることができます。彼はもう帰るところがないのですから。
著作権の消滅した作品などを保管する「青空文庫」。坂口安吾の「桜の森の満開の下」も読めてしまう。久しぶりにラストを少し読んだけど、孤独と狂気にに満ち溢れた物語は、どれだけの時が経とうとも、鋭く美しい。