さまよう刀
「女房によると、千晶は死ぬ前にシャワーを浴びたようです」
「シャワー?」
「ええ。後からわかったらしいんですが、そういう形跡があったそうなんです。夜中にシャワーを浴びて、下着も新しいものに取り替えていたそうです。そのことを女房は、私にもずっと黙っていたみたいです。だから、その、どういうことがあったのか、女房はうすうす感づいていたんじゃないかと思うんですがね」
一人の女の子がレイプされ殺害される。その父は、何者かの密告によって犯人のヒントを得る。犯人は未成年、警察に連絡して逮捕されても、少年法に守られ数年で娑婆に出てくる流れが容易に想像できる。それならばいっそ自らの手で。という話。
物語を盛り上げるためか、犯人の少年は鬼畜として描かれ、犯人を追う被害者の父親は殺してやりたいという感情と理性との間で激しく揺れ動く。物語としては十分スリリングで一気に読んだのだが、途中から作者がこの問題にどういった結論を付けるのかがずっと気になっていた。
それを書いてしまうと面白さが半減するので書かないけれど、自分なりに感じたところとしては、本の中である登場人物も言っているけれど、刑法自体の不完全さと、警察はその不完全な刑法に遵守した社会を保つ組織であって、厳密異な意味で市民の安全を守っているわけではないのだなという事。
自分でも結論が出ない事のひとつが、「そもそも加害者を更正させる必要があるのか」という点。実際に更正するかしないかは関係なく、そもそも殺人などの重大事件を犯した人間に、更正させる機会そのものを与える意味があるのかと言う事。現状、被害者はその後の人生全てを奪われるが、加害者は必ずしもそうではない。
人権やその人にとってのその後の人生などよく言われる理屈はすべて加害者にも言えるが被害者にも言える。現状のように殺されるリスク(全てが終わり)よりも殺すリスクが低い(社会復帰可能)社会だと、殺したもの勝ちになって、社会システムとしてバランスがおかしいように思うのだけれど。そこさえ解決できれば少年法の問題も刑法第39条(心神喪失者の行為は罰しない)も解決できるように思うが。解決というか、大多数が納得できる案と言うか。

